列車

定期的に刻むリズムに合わせて、座席が揺れる。

車内は過剰に明るい蛍光灯で照らされ、時折弱々しく消えそうになっていることが、自分の視界に入ってくる光の量でわかる。

窓はない。

ぼくたちは作業台の前に座っている。一つの台に4人座り、手は膝か腿の上に、近くの人と何かおしゃべりをする訳でもなく、じっと台の上の板を見つめていた。

板は大人の手のひらほどの大きさがあり、厚さは5ミリほどしかない。細かな穴がたくさん空いており、作業台の溝に立てられている。

前側に向かい合って座っている人を、視界の端に捉えた。

ぼくと同じ丸刈りだが、顔付きから女の子かと思った。歳は同じぐらい、十代後半だろう。

列車が揺れるたび、ぼくらは一様に震えた。服というよりは袋に近い布を身にまとい、意思を持って動くものは何一つなかった。

前の方から、重たそうな金属製のものが引きずられる高い摩擦の音がし、そちらの方に目線を合わせそうになった。

その後に続くこつこつと床を叩く音に、視線を目の前の薄い穴あきの金属板に視線を戻させられた。

「全員、起立!」

考える間も無く、身体が跳ね上がる。全員ぼくと同じような反応をしてみせた。

「今日はワイヤー貫通作業一人500枚!作業手順は作業台の下に各人一部づつ用意してある!」

こつこつしながら、声の主はこちらに近づいているようだった。声の高さからして、おそらく女性であろう。

「作業が終わったら作業台下にあるボタンを押すこと!そうすれば追加の板が配給される!」

女性が視界の端に現れた。暗い緑色の襟付きの服に三角の装飾が施してあり、ブーツは膝下まである。

「ではこれから作業を始める!各自着席!」

またぴくっと身体が動き、席に座った。目の前にはいつの間にかワイヤーがあった。

「c14車両員、作業始め!」

右手でワイヤーを乱暴につかみ、腰を曲げて、板の穴たちに目線を合わせた。

一番右端の、一番上の穴の、奥側からワイヤーを通す。

手前にきたワイヤーを少し曲げて、次の穴にまた通す。

ワイヤーは力を入れることなく簡単に曲がり、次々と穴に通されてゆく。

ぼくは無心になってワイヤーを穴に通した。さっきまで気になっていた照明の明るさやボロ切れみたいな服や、目の前の女の子であろう人のことも、何もかも忘れそうになった。

後ろの方で鋭い音が走った。

「おいお前!なぜ手を動かさない!」

三角装飾の女が怒鳴る声が聞こえる。

ぼくは手を止めそうになった。後ろで起こっている出来事を見たくなった。視線が板から徐々に外れていくのがわかる。まるで大きな力で首をねじられているようだった。

「だめよ、手を止めちゃ。」

前の方から声が聞こえる。声の力はとても強く、後ろを向きそうだったぼくを一瞬で前に向かせた。

「あなたもぶたれちゃう。だから手を止めないで。」

やはり前の子は女の子だった。目が大きく、潤んでいる。

ぼくはありがとうの意味をこめて、こくっとうなずき、板に視線を戻し、ワイヤーを通し続けた。

「だっておかしいだろう!みんな坊主にして、こんな雑巾みたい服着せられて!

だいたい板に穴を通したから何だっていうんだ!何の意味があるんだよ!」

ここまで聞こえたが、続きの言葉はまたピシッという鋭い音に阻まれて、聞こえなくなった。

しばらくして、ずるずると引きずられている音がした。三角装飾の女が誰かに指示を出しているような声が聞こえたが、内容までは聞こえなかった。

がたんと列車が揺れ、同じ頭をしたぼくらも揺れる。みんなでワイヤーを穴に通している。

みな次々にボタンを押し、新しい板をもらって作業を進めている。

ぼくも最後の穴にワイヤーを通しきったので、ボタンを押そうとした。

そのとき一段と列車が強く揺れた。