屋根裏部屋

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気がつくと屋根裏部屋にいた。天井が斜めなので、きっとそうなんだろう。

この部屋に来る前、どこで何をしていたのか全く思い出せない。思い出して何かしたい、納得したいことも特になかったので、この部屋にいることを受け入れていた。

窓は外側に開いており、風と少しの枯葉が入ってくる。

赤やオレンジや黄色に染まった背丈の大きな木が、玄関と思しきスペースを挟んで並んでおり、間から見える向こうは牧場のようだった。

犬が吠え、からんからんと大きめの鈴が遠くの方で鳴る。

私は自分の身の回りを見回した。

床は畳が敷いてあり、窓から日が差し込むとこは特に色あせていたが、部屋の中はかすかにい草の香りが漂う。

部屋の中から窓の外を眺める。暖色の木の葉と空が空気までほんのり温めているようで、産毛と皮膚の間にふわっとした空気をとりこむ。

体がふわっと浮いた気持ちになって、部屋から出てこの赤い暖色の世界に溶け込みたいという欲求が、毛穴から噴き出してきた。

振り返り、まずこの屋根裏部屋から出ることが先決だろうと、部屋を歩き回った。

そう時間のかからないうちに、この部屋にそれらしい出入り口がないことが分かった。

なぜ入ってきたのかは考えず、何とかして出ようと、部屋の隅に置いてある文庫本の束をどかしながら、何か探した。

文庫本は20年ほど前に出版されたものが多く全体的に日焼けして黄ばんでいるものが多い。

部屋の隅から壁にそって文庫本をどかし、もう一方の隅にたどり着いた。

その隅には小さな箪笥があり、動かそうとしても小さい割にしっかりとしたものらしく、びくともしない。

仕方なしに引き出しを下から順に確認した。

一番下と真ん中の段には何もはいいて泣く、一番上の段には古い通貨と紙幣があった。

昔学校で歴史の教科書で習ったような、小判も置いてある。また外国のものと思われる紙幣もあった。

種類も豊富だったが、その量も多かった。いくつもの札束が、引き出しの中に整然と並んでいて、傷やこすれた跡があるものも多いが、埃一つなく清潔に保たれている。

しかし、私が知りうる限りの現在使える紙幣や硬貨は一つも見当たらなかった。

引き出しを出したまま、その隣へ視線をうつす。

そこには子紫色の小さな座布団と、その上に木の箱が置いてある。

箱は片手に収まる大きさで、蓋は乗っかっているだけで鍵はされていない。

分からないものは理解したくなるし、何かの納得が欲しい気持ちが抑えられず、ふたを開けてしまった。

中から何か出てくることを、頭の隅では期待していたが、中には何も入ってないように見えた。

ふたを閉め、箱をもとあった位置に戻した。

腰を落とし、手を後ろにやり支える格好で、いったん自分が置かれている状況を整理した。屋根裏部屋と思しき部屋にいて、建物の中へ通じる出入り口はない。窓は空いているが、3階以上はありそうだ。

窓から下りることが一番現実的な案のように思えたが、綱状のものは何もないので、一番最後に取っておくことにした。

手に何か軽いものが乗った。

黒い固そうな外骨格に守られた、俊敏な虫だった。頭がそれを何か判断する前に、身体がそれを払いのけた。

ぽとっと床に落ちたそれは、身体のわりに頼りのなさそうな6本の足をバタバタと暴れさせながら、くるっ体勢を立て直し、部屋の隅に逃げ込んだ。

しばし呆然とした私は、この部屋を出ることよりも、不愉快なその虫をを駆除することが、何よりも優先しなくてはいけないことになった。

先程確認した文庫本の束から、汚れが最もひどそうで、重量がありそうなものを一つ選び、虫が逃げ込んだ部屋の隅に近づく。

音をたてないように、指の先から接地しながら、一歩ずつ足の動きを頭で把握しながら踏み出していく。

部屋の隅は、壁が一部古くなっていて、ゴルフボールが何とか収まりそうな穴が開いている。

奴はここから出てきたのだろう。そう思った途端、穴から一斉に彼らが出てきた。

私は文庫本をやたらめったらに振り回した。あらかた振り払ったが、数匹は私の体を這い上がってくる。

来ていた服を脱ぎ、その数匹も払い落とす。体中の毛穴が、警戒して塞ぎきる。

身体から出ていった彼らは、脱ぎ捨てた私の服にまとわりついていた。

ぼうっとそれを見ていた。

もう一度腰を下ろした。タバコを吸いたくなった。